2008年02月05日

2015年、テレビは「ニコ動」化する?――NRIが示す未来像





 10代の3分の1が「テレビはなくてもいい」という時代。NRIが示した「未来のテレビの理想像」のモデルには、「ニコニコ動画」の特徴がいくつも組み込まれている。

 若年層のテレビ離れが進んでいる。野村総合研究所(NRI)の調査で「テレビがなくなっても構わない」と答えた人の割合は20〜29歳で24%、15〜19歳は33%と3分の1に達した。

 テレビで放送されているコンテンツをリアルタイムで見るというスタイルが、HDDレコーダーや動画共有サイトの普及で大きく変わってきている。テレビの視聴率も低減傾向。DVDやCD、書籍などのコンテンツパッケージ市場も振るわず、コンテンツ産業は岐路に立っている。

 「コンテンツ市場はどうすれば成長できるか」――NRIは2月5日、2015年に向けたメディアやコンテンツの変革シナリオを「こうあってほしいという理想も含めて」(同社情報・通信コンサルタント部の中村博之上級コンサルタント)提示した。そこで示した「未来のテレビの理想像」は、「ニコニコ動画」「YouTube」などネットサービスにある機能がいくつも取り込まれている。

●「テレビ不要」でも「YouTubeでテレビ番組見る」

 同社が全国の15〜79歳の男女1200人を対象に行ったメディアに対する調査(07年9月に戸別訪問で実施)によると、1年前と比べて接触時間が「増えた」という答えが多かったメディアは、Webサイトと音楽ファイル(のダウンロード数)だけ。ほかの項目――DVDや書籍、CD、テレビなどはすべて、「接触時間が減った」と答えた人の方が多かった。

 テレビだけで見ても、視聴時間は減少傾向だ。生で見る時間は「減った」と答えた人が24%、「増えた」人は10%。録画番組を見る時間は「減った」が41%、「増えた」が13%だった。「テレビがなくなっても困らない」と答えた人は若年層ほど多く、15〜19歳で33%、20〜29歳で24%、30〜39歳で21%だ。

 テレビに反比例して利用が増えているのが、YouTubeやニコニコ動画などの動画投稿サイトだ。動画投稿サイトの利用経験率は若年層ほど高く、15〜19歳・20〜29歳がそれぞれ30%、30〜39歳が19%に上る。

 「コンテンツ業界は前門の虎・後門の狼で身動きが取れない」と中村さんは指摘する。コンテンツのデジタル化・ネット化で、視聴者のテレビ離れやパッケージ離れが進んでいる上、娯楽が多様化して時間の奪い合い競争が激しくなっている。「娯楽の王様はコンテンツからコミュニケーションに変化している」(中村さん)

 テレビ局など既存のメディア事業者は、この変化を肌で感じていたとしても、自らドラスティックに変わっていくのは難しい。ネット化の推進は既存ビジネスを傷つけることにもつながるためだ。「長期的成長のシナリオは、現状の延長線上では描きづらい。思考をジャンプアップさせる必要がある」(中村さん)

●「デジタルネイティブ」に“刺さる”のは

 では、どのようなメディアが次世代にふさわしいのか。90年代後半以降に生まれ、子ども時代からネットや携帯電話、iPodなどが当たり前だった若年層を「デジタルネイティブ」と名付け、彼らに“刺さる”メディア像を検討した。

 デジタルネイティブ層の性質を探るため、先の調査から、傾向の異なる5つのグループを抽出。そのうちメディアに最も敏感な層を「デジタル自由人」、次にメディアに敏感な層を「トレンドフォロワー」と名付け、デジタルネイティブは「デジタル自由人」と似た性質を持っていると想定した。

 デジタル自由人は20代が中心。ネットを中心に利用し、半数近くが「テレビがなくても困らない」と回答する。ただ動画投稿サイトではテレビ番組をよく見ており、創作活動への参加意識も強い。トレンドフォロワーはテレビを中心にメディアを利用する30代中心の層で、コンテンツの評判やランキングを気にする。

 デジタルネイティブとトレンドフォロワー双方に受け入れられるメディアなら、一般にも広がっていく力があるはず。そんな想定で次世代テレビのシナリオを描き、イメージ映像化して公開した。

 その内容は「2011年、多様なコンテンツから好みのものを選んで視聴できる『コンテンツ・シンクロナイザー』が登場。2013年には、視聴者がコンテンツを評価し、評判に応じてクリエイターに報酬が回る『コンテンツ・エバリュエーター』が登場する。優秀なクリエイターがメディアを超えて活躍し、日本がクリエイティブ産業の集積地になって海外市場でも存在感を発揮する」というものだ。

●次世代テレビは「ニコニコ動画」のように?

 このシナリオに登場する次世代テレビは、(1)多様なコンテンツをオンデマンドでいつでも利用できる、(2)検索やリコメンドで見たいコンテンツに簡単にアクセスできる、(3)視聴者同士で感想を言い合ったりしてコミュニケーションできる、(4)視聴者がコンテンツやクリエイターを直接評価できる、(5)評価に応じた報酬がクリエイターに支払われる――といった特徴がある。

 「ネット上ではすでに実現されているものもある」と同社情報・通信コンサルタント部の北林謙主任コンサルタントは言う。完全な形ではないにせよ(1)と(2)はYouTubeやニコニコ動画で実現済み。(3)はニコニコ動画のコメントの仕組みを、1つのモデルとして挙げる。

 (4)も、ニコニコ動画やYouTubeである程度実現されている。YouTubeでは再生数で、ニコニコ動画では再生数やコメント数、コメントの内容、マイリスト登録数などで、ユーザーの評価が動画投稿者に直接伝わるようになっている。

 (5)は、現行のコンテンツ流通の問題点を解消するための仕組みだ。日本のコンテンツ産業はメディア(テレビ局やレコード会社など)に多くのお金が回り、製作者は十分な報酬を得ていない――という問題が指摘されている。加えて、テレビ局を中心としたメディアが優秀なクリエイターが囲い込んでおり、メディアの枠を超えた活躍も難しい。

 視聴者の評価に応じた報酬が直接クリエイターに回るようになれば、メディアではなくクリエイターを軸にしたコンテンツ製作サイクルができていくと想定。優秀なクリエイターやコンテンツにお金や評価が集まり、メディアの枠組みを超えた競争が起きて作品の質が高まり、コンテンツ産業活性化につながる――という青写真を描く。

●ネットの現場はすでに変化している

 実現への課題は多い。新機能が実現したとして、その機能が付いたテレビをいかに普及させるかというハード面の課題や、報酬を適正に分配できる評価の仕組み、著作権の管理体制構築、クリエイターの育成環境の整備などだ。

 希望の光は、日本のクリエイター層の厚さだという。「日本人は、誰でも漫画がある程度描けるし、インディーズアーティストの数も多い。ニコニコ動画がそれを証明している」(北林さん)

 ニコニコ動画では例えば、質の高いオリジナル楽曲が発表されると、別のユーザーがプロモーションビデオを作ったり、歌詞の字幕を付けたり、伴奏を付けたり、カラオケで歌って発表したり――と、創造のサイクルが高速に回転。海外のユーザーが母語でその楽曲を翻訳して歌うなど、コンテンツの国際化も起きている。

 「コンテンツ産業を考える時、制度や業界のあり方に目が行きがちだが、現場は制度と関係なく進んでいる。長期的に世界を変えるのは、技術と創造力だ」(北林さん)
(2008.2.5/ITmediaニュース)

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